人事労務管理の実務について

労働基準法に沿って採用から退職までのケースに沿って解説いたします。


目次

採用

均等法は、「事業主は、労働者の募集及び採用について、その性別にかかわりなく均等な機会を与えなければならない」と定めています(雇均5)。これについて、厚生労働省の指針においては、「募集又は採用に当たっての条件を男女で異なるものとすること」を均等法に違反する措置として定めています(労働者に対する性別を理由とする差別の禁止等に関する規定に定める事項に関し、事業主が適切に対処するための指針(平18-10-11厚労

告614))。したがって、性別により異なる募集・採用条件を設けることは、原則として禁止されます。

ただし、一定の場合に女性労働者を有利に取り扱うポジティブアクションや、防犯上の要請等合理的理由のある場合において必要な限度で性別により異なる取扱いを行うことは可能です(前掲指針)。ポジティブアクションの例として、例えば、いわゆる総合職の女性が相当程度少ない場合に、総合職の採用に当たって、女性を積極的に選考すること等女性優遇の措置をとることが挙げられます(コース等で区分した雇用管理を行うに当たって事業主が留意すべき事項に関する指針(平25,12 - 24厚労告384))。なお、いわゆるコース別雇用管理においては、コースごとに異なる雇用管理を行う

ものであって、性別によって雇用管理を行うものでないにもかかわらず、例えば、職場における固定的な性別役割分担意識等を背景に実質的に性別による雇用管理となっている等、その運用において男女で異なる取扱いがなされているような場合は、原則として均等法違反となります。例えば、「転勤があることが条件となっているコース等に応募した者のうち、女性に対してのみ、面接等において転勤の意思を確認すること」は、均等法に違反すると考えられます(コース等で区分した雇用管理を行うに当たって事業主が留意すべき事項に関する指針の策定について(平25、12 ・ 24雇児発1224第さらに、性別以外の事由に基づき異なる募集■採用条件を設ける場合であっても、それが実質的に性別を理由とする差別となるおそれがある措置として厚生労働省令で定めるものについては、原則として禁止されます。均等法は、間接差別(=性別以外の事由を要件とする措置であって、他の性の構成員と比較して一方の性の構成員に相当程度の不利益を与えるものとして厚生労働省令で定める措置(以下に掲げるもの)

①募集•採用に当たり、身長、体重又は体力に関する事由を要件とすること

②募集若しくは採用、昇進又は職種の変更に当たり、転居を伴う配置転換に応じることができることを要件とすること

③昇進に当たって、転勤の経験があることを要件とすること

ただし、業務の性質に照らして当該措置が当該業務の遂行上特に必要である場合、事業の運営状況に照らして当該措置の実施が雇用管理上特に必要である場合その他合理的な理由がある場合にはこの限りではありません。

なお、「女性の職業生活における活躍の推進に関する法律」(平成27年9月4日法律64号)が成立•公布され、301人以上の労働者を雇用する事業主は、以下の事項が義務づけられることとなりました。

①採用者に占める女性比率、勤続年数の男女差、労働時間の状況、管理職に占める女性比率等について、_社の女性の活躍状況を把握し、課題分析を行うこと

②前記(Dの結果を踏まえて、女性の活躍推進に向けた行動計画を策定し、都道府県労働局(雇用均等室)へ届け出るとともに、行動計画について労働者への周知、外部への公表を行うこと(なお、行動計画には、計画期間、数値目標、取組内容、取組の実施時期を盛り込むこと)

③自社の女性の活躍に関する情報を公表すること

また、行動計画の策定•届出を行った事業主のうち、女性の活躍推進に関する取組の実施状況等が優良な企業は、都道府県労働局への申請により、厚生労働大臣の認定を受けることができます。

 

募集•採用に当たって年齢制限を設けることは、以下の場合を除いて禁止されます

(労働施策の総合的な推進並びに労働者の雇用の安定及び職業生活の充実等に関する法律9.労働施策の総合的な推進並びに労働者の雇用の安定及び職業生活の充実等に関する法律施行規則1の3①)。

①定年年齢を上限として、その上限年齢未満の労働者を期間の定めのない労働契約の対象として募集•採用する場合

②労基法その他の法令の規定により年齢制限が設けられている場合

③ 長期勤続によるキャリア形成を図る観点から、若年者等を期間の定めのない労働契約の対象として募集•採用する場合

④ 技能•ノウハウ等の継承の観点から、募集・採用の対象を特定の職種において労働者数が相当程度少ない特定の年齢層に限定し、かっ、期間の定めのない労働契約の締結を目的として募集・採用する場合

⑤ 芸術•芸能の分野における表現の真実性などの要請がある場合

⑥ 高年齢者の雇用の促進を目的として60歳以上の高年齢者を募集•採用する場合、又は特定の年齢層の雇用を促進する施策(国の施策を活用しようとする場合に限ります。)の対象となる者に限定して募集•採用する場合

 

なお、募集に際しては、職務を遂行するために必要とされる労働者の適性、能力、経験、技能の程度など、応募者に求められる事項をできる限り明示することが求められています(労働施策の総合的な推進並びに労働者の雇用の安定及び職業生活の充実等に関する法律施行規則1の3②)。

 


労働者・使用者・事業場
法9条の「労働者」かどうかの判断は、雇用契約、請負契約といった契約の形式にかかわらず、実態において事業に「使用され」賃金を支払われていると認められるかどうかによります。「使用され」ているかどうかは、仕事の依頼等に対する諾否の自由があるか、業務の内容や遂行方法について指揮監督の有無、勤務場所や時間の拘束の有無、仕事を他の者に代替させることが認められるか否か等から総合的に判断されます。

 

法第10条

この法律(労働基準法)で使用者とは、事業主又は事業の経営担当者その他事業の労働者に関する事項について、事業主のために好意をするすべての者をいう。

 

法における「使用者」とは、法の定める義務の主体(履行の責任者)として捉えられます。法10条の「労働者に関する事項」には、人事、給与、福利厚生その他の労働条件の決定、労働者に対する業務命令、指揮監督、労務管理等広く含まれますので、これらの事項について事業主のために一定の権限を持って行為する者は、企業内における地位の高いものから比較的地位の低い者までその権限と責任に応じてすべて「使用者」に該当することとなりますが、単なる上司の伝達者はこれに該当しません。

法は事業(事業所)を単位として適用されますが、一の事業に当たるかどうかは主として場所的観念によって判断されます。したがって、同一場所にあるものは原則として、一個の事業とし、場所的に分散していれば原則として別個の事業としますが、例外として、同一場所にあっても主たる部門と著しく労働の態様が異なり、従事労働者、労務管理等が明確に区分され、それと分ける方が法の適用がより適切に行えるような場所(例えば、工場内の診療所や食堂など)には、その部門を独立の一つの事業と取り扱います。逆に、場所的に分散していても出張所等で規模が著しく小さく、組織的関連ないし事務能力から見て一つの事業という程の独立性がない場合には、直近上位の気候と一括して一つの事業として取りあつかいます。

 


 
労働者の権利擁護

労働条件は労働者と使用者が、対等な立場において決定すべきものである。(第2条)また使用者は、国籍、又は信条、社会的身分を理由として、賃金、労働時間、その他の労働条件について差別的取り扱いをしてはならない。

法4条は女性であること理由として、賃金について男性と女性の差をつけてはならないとしている。均等法は募集、採用、配置、昇進、昇格、教育訓練、一定の福利厚生、職種の変更、雇用形態の変更、退職勧奨、定年、解雇、労働契約の更新について性別の禁止を定めています。なお、罰則はありません。また、労基法第5条には強制労働の禁止を規定している。

公民権行使の保障 (法第7条)

「公民としての権利」とは公民に認められる国家又は公務に参加する権利である。例えば、「公民としての権利」には、①法令に根拠を有する公職の選挙権及び被選挙権②憲法の定める最高裁判所裁判官の国民審査(憲法第79条)③特別法の住民投票(同第95条)④憲法改正の国民投票(同第96条)

⑤地方自治法による住民の直接請求⑥選挙権及び住民としての直接請求権の行使等の要件となる選挙人名簿の登録の申出(公職選挙法第21条)等。

 

 本条の「公の職務」とは、法令に根拠を有するものに限られるが、法令に基づく公の職務のすべてをいうものではなく、①国又は地方公共団

体の公務に民意を反映してその適正を図る職務、例えば、衆議院議員その他の議員、労働委員会の委員、陪審員、検察審査員、労働審判員、裁

半員、法令に基づいて設置される審議会の委員等の職務②国又は地方公共団体の公務の公正妥当な執行を図る職務、例えば、民事訴訟法第271条

による証人•労働委員会の証人等の職務③地方公共団体の公務の適正な執行を監視するための職務、例えば、公職選挙法第38条第1項の選挙立

会人等の職務等をいいます。

 

公民権行使の時間と賃金

労働協約、就業規則、慣行等により、有給とされていない限り、無給で良い。賞与の算定に当たっても、不就労扱いしても良いといえる。

使用者は、労働者が労働時間中に「必要な時間を請求した場合においては、拒んではならない」のですから、選挙権の行使を就業前にすませるように指示することは本条に違反するものではありませんが、その指示に従わなかった労働者が労働時間中に選挙権行使のための時間を請求した場合に、これを拒否すれば本条違反となります。

また、労働者が必要な時間を請求した場合、権利の行使、公の職務の執行に支障のない限り、請求された時刻、日にちを変更することはできます。

労働契約

法13条 この法律で定める基準に達しない労働条件を定める労働契約は、その部分については無効とする。この場合において、無効となった部分はこの法律で定める基準による。

労働契約は労働条件を明示し書面でおこないます。日々雇入れられる者の労働契約、技能養成工の労働契約、出向等のケースで法に従った労働契約と遵守が求めらます。

(1)在籍型出向は、出向先と出向労働者との間に出向元から委ねられた指揮命令関係ではなく、労働契約関係及びこれに基づく指揮命令関係がある形態です。出向先と出向労働者との間に労働契約関係が存するか否かは、出向•派遣 という名称によることなく出向先と労働者との間の労働関係の実態により、出向先が出向労働者に対する指揮命令権を有していることに加え、出向先が賃金の全部又は一部の支払いをすること、出向先の就業規則の適用があること、出向先が独自に出向労働者の労働条件を変更することがあること、出向先において社会•労働保険へ加入していること等総合的に勘案して判断すること。

在籍型出向の出向労働者については、出向元及び出向先の双方とそれぞれ労働契約関係があるので、出向元及び出向先に対しては、それぞれ労働契約関係が存する限度で労働基準法等の適用がある。すなわち、出向元、出向先及び出向労働者三者間の取決めによって定められた権限と責任に応じて出向元の使用者又は出向先の使用者が出向労働者について労働基準法等における使用者としての責任を負うものである。この点については、昭和59年10月18日付け労働基準法研究会報告「派遣、出向等複雑な労働関係に対する労働基準法等の適用について」中「3 いわゆる出向型に対する労働基準法等の適用関係」を参照のこと。

(2)移籍型出向

移籍型出向は、出向先との間にのみ労働契約関係がある形態であり、出向元と出向労働者との労働契約関係は終了している。移籍型出向の出向労働者については、出向先とのみ労働契約関係があるので、出向先についてのみ労働基準法等の適用があります。                        (0361-6-6基発333)

 

出向には在籍型出向と移籍型出向があること、在籍型は出向先と出向元の双方に労働契約関係があり、労働契約関係が存する限度で労働基準法の適用があることを述べています。 

 一般的には、労働時間、休憩、休日、安全衛生、災害補償などは、就業し指揮命令をうけている出向先に労基法上の責任があるということになります。

他方、移籍型出向は、いわゆる「転籍」ですので出向元との労働契約関係は終了してなくなっており、専ら出向先との労働契約関係となり、移籍出向先が労働基準法上の責任を負うことになります。

労働契約の期間について

第14条(契約期間等)

① 労働契約は、期間の定めのないものを除き、一定の事業の完了に必要な期間を定めるもののほかは、3年(次の各号のいずれかに該当する労働契約にあっては、5年)を超える期間について締結してはならない。

一 専門的な知識、技術又は経験(以下この号及び第41条の2第1項第1号において「専門的知識等」という。)であって高度のものとして厚生労働大臣が定める基準に該当する専門的知識等を有する労働者(当該高度の専門的知識等を必要とする業務に就く者に限る。)との間に締結される労働契約

二満60歳以上の労働者との間に締結される労働契約(前号に掲げる労働契約

を除く。)

② •③〔省略〕

 

第137条 

期間の定めのある労働契約(一定の事業の完了に必要な期間を定めるものを除き、その期間が1年を超えるものに限る。)を締結した労働者(第14条第1項各号に規定する労働者を除く。)は、労働基準法の一部を改正する法律(平成15年法律第104号)附則第3条に規定する措置が講じられるまでの間、民法第628条の規定にかかわらず、当該労働契約の期間の初日から1年を経過した日以後においては、その使用者に申し出ることにより、いつでも退職することができる.

 

雇用契約期間は3年が限度です。3年以上の雇用契約は違法になります。また。137条は一般の有期雇用契約労働者は初日から1年経過後は、使用者に申し出ることにより、いつでも退職することができることになりました。

有期労働契約の締結・更新・雇止め

 

ア有期労働契約の雇止めに関する裁判例を見ると、契約の形式が有期労働契約であっても、-反復更新の実態や契約締結時の経緯等により、実質的には期間の定めのない契約と異ならないものと認められた事案

•実質的に期間の定めのない契約とは認められないものの契約更新についての労働者の期待が合理的なものと認められた事案

•格別の意思表示や特段の支障がない限り当然更新されることを前提として契約が締結されていると認められ、実質上雇用継続の特約が存在すると

言い得る事案があり、使用者は、こうした事案では解雇に関する法理の類推適用等により雇止めの可否を判断するとの判例法理(雇止め法_があり、これが労働契約法(平成19年法律第128号)第19条に規定されたことに留意しつつ、法令及び雇止めに関する基準に定められた各事項を遵守すべきものであること。

(平15 -10 - 22基発1022001 第1「2」⑶ 平25 • 3 - 28基発0328第 6)

 

雇止めについての裁判例を見ますと契約期間の定めがあるものでも、単に期間が満了したからといって雇止めができないとする判例があり、それは3

つの類型があると指摘しています。その1つ目は有期労働契約でも、何度も更新を重ね、「実質的には期間の定めのない契約と異ならないものと認められた事案」です。例えば、期間を定めた契約であっても、更新契約もせずに何度も更新を重ね、誰が見ても「期間の定めのない契約」と同じように見える場合などです。

2つ目の類型は、契約期間がはっきり定められていても、よほどの理由がなければ、更新されるとの「期待が合理的なものと認められる場合」で文。

3つ目の類型は、当然更新されることを前提として契約が結ばれていると認められ、誰もが更新契約を続けていて、「実質上雇用継続の特約が存在すると言い得る事案」です。

通知は、上記のような事案では、解雇に関する法理の類推適用等により雇止めの可否を判断するとの最高裁判例で確立した「雇止め法理」があり、これが労働契約法19条に規定(平成25年4月1日施行)され一定の場合には雇止めが認められないことになることに使用者は留意しつつ法令及び雇止めに関する基準に定められた各事項を遵守すべきであるとしています。

労働条件の明示

 

第15条(労働条件の明示)

① 使用者は、労働契約の締結に際し、労働者に対して賃金、労働時間その他の労働条件を明示しなければならない。この場合において、賃金及び労働時間に関する事項その他の厚生労働省令で定める事項については、厚生労働省令で定める方法により明示しなければならない。

② 前項の規定によつて明示された労働条件が事実と相違する場合においては、労働者は、即時に労働契約を解除することができる。

③ 前項の場合、就業のために住居を変更した労働者が、契約解除の日から14日以内に帰郷する場合においては、使用者は、必要な旅費を負担しなければならない。

則第5条(使用者が明示すべき労働条件)

① 使用者が法第15条第1項前段の規定により労働者に対して明示しなければならない労働条件は、次に掲げるものとする。ただし、第1号の2に掲げる事項については期間の定めのある労働契約であつて当該労働契約の期間の満了後に当該労働契約を更新する場合があるものの締結の場合に限り、第4号の2から第11号までに掲げる事項については使用者がこれらに関する定めをしない場合においては、この限りでない。

一労働契約の期間に関する事項

一の二期間の定めのある労働契約を更新する場合の基準に関する事項

一の三 就業の場所及び従事すべき業務に関する事項

二 始業及び終業の時刻、所定労働時間を超える労働の有無、休憩時間、休日、休暇並びに労働者を2組以上に分けて就業させる場合における就業時転換に関する事項’

三 賃金(退職手当及び第5号に規定する賃金を除く。以下この号において同じ。)の決定、計算及び支払の方法、賃金の締切り及び支払の時期並びに昇給に関する事項

四退職に関する事項(解雇の事由を含む。)

 

四の二 退職手当の定めが適用される労働者の範囲、退職手当の決定、計算及び支払の方法並びに退職手当の支払の時期に関する事項

五 臨時に支払われる賃金(退職手当を除く。)、賞与及び第8条各号に掲げる賃金並びに最低賃金額に関する事項

六労働者に負担させるべき食費、作業用品その他に関する事項

七安全及び衛生に関する事項

八職業訓練に関する事項

九 災害補償及び業務外の傷病扶助に関する事項

十表彰及び制裁に関する事項

十一休職に関する事項

①   使用者は、法第15条第1項前段の規定により労働者に対して明示しなければならない労働条件を事実と異なるものとしてはならない。

②   法第15条第1項後段の厚生労働省令で定める事項は、第1項第1号から第4号までに掲げる事項(昇給に関する事項を除く。)とする。

③   法第15条第1項後段の厚生労働省令で定める方法は、労働者に対する前項に規定する事項が明らかとなる書面の交付とする。ただし、当該労働者が同項に規定する事項が明らかとなる次のいずれかの方法によることを希望した場合には、当該方法とすることができる。

ー ファクシミリを利用してする送信の方法

二電子メールその他のその受信をする者を特定して情報を伝達するために用いられる電気通M (電気通信事業法(昭和59年法律第86号)第2条第1号に

規定する電気通信をいう。以下この号において「電子メール等」という。)の送信の方法(当該労働者が当該電子メール等の記録を出力することにより書面を作成することができるものに限る。)

 書面の交付により明示すべき事項とその方法

三 書面の交付により明示すべき事項

使用者が労働契約の締結の際に書面により明示すべき事項として、次の事項を追加したものであること。

(1)労働契約の期間に関する事項

期間の定めのある労働契約の場合はその期間、期間がない労働契約の場合はその旨を明示しなければならないこと。

(2)       就業の場所及び従事すべき業務に関する事項

雇入れ直後の就業の場所及び従事すべき業務を明示すれば足りるものであるが、将来の就業場所や従事させる業務を併せ網羅的に明示することは差し支えないこと。

(3)始業及び終業の時刻、所定労働時間を超える労働の有無、休憩時間、休日、休暇並びに労働者を2組以上に分けて就業させる場合における就業時転換に関する事項

当該労働者に適用される労働時間等に関する具体的な条件を明示しなければならないこと。

なお、当該明示すべき事項の内容が膨大なものとなる場合においては、労働者の利便性をも考慮し、所定労働時間を超える労働の有無以外の事項については、勤務の種類ごとの始業及び終業の時刻、休日等に関する考え方を示した上、当該労働者に適用される就業規則上の関係条項名を網羅的に示すことで足りるものであること。

(4)        退職に関する事項

退職の事由及び手続、解雇の事由等を明示しなければならないこと。なお、当該明示すべき事項の内容が膨大なものとなる場合においては、

労働者の利便性をも考慮し、当該労働者に適用される就業規則上の関係条項名を網羅的に示すことで足りるものであること。

 

四 書面明示の方法

上記三の書面の様式は自由であること。 

なお、上記に掲げた事項については、当該労働者に適用する部分を明確にして就業規則を労働契約の締結の際に交付することとしても差し支えません。

  

 テレワークと労働条件の明示

 

使用者は、労働契約を締結する際、労働者に対し、賃金や労働時間のほかに、就業の場所に関する事項等を明示しなければならない(労働基準法第15条、労働基準法施行規則(昭和22年厚生省令第23号)第5条第1項第1の3号)。その際、労働者に対し就労の開始時にテレワークを行わせることとする場合には、就業の場所としてテレワークを行う場所を明示しなければならない。また、労働者がテレワークを行うことを予定している場合においては、自宅やサテライトオフィス等、テレワークを行うことが可能である就業の場所を明示することが望ましい。

なお、労働者が専らモバイル勤務をする場合等、業務内容や労働者の都合に合わせて働く場所を柔軟に運用する場合は、就業の場所についての許可基準を示した上で、「使用者が許可する場所」といった形で明示することも可能である。

また、テレワークの実施とあわせて、始業及び終業の時刻の変更等を行うことを可能とする場合は、就業規則に記載するとともに、その旨を明示しなければならない(労働基準法施行規則第5条第1項第2号)。

 パソコンなどの情報通信機器を活用して事業場外で業務に従寧する勤務(テレワーク)は、次世代のワークスタイルとして、労使双方から期待されています。厚生労働省ではテレワークの労務管理についてガイドラインを定めて指針としています。上記の指針の中にテレワークにおいても、労働契約の締結に際し労働条件の明示をすることを労働基準法の注意点として挙げています。その中で、「就業の場所として、テレワークを行う場所を明示しなければならない」としています。法15条、則5条3項、4項の規定から就業の場所を自宅とする明示は書面の交付によって明示しなければなりません。

なおテレワークにおいても、法38条の2に規定する事業場外労働に関する「みなし労働時間制」が適用できる場合とできない場合があり、通知で示されておりますのでご留意ください。

第16条(賠償予定の禁止)

使用者は、労働契約の不履行について違約金を定め、又は損害賠償額を予定

する契約をしてはならない。

第17条(前借金相殺の禁止)

 

使用者は、前借金その他労働することを条件とする前貸の債権と賃金を相殺

してはならない。

POINT

違約金は、労働者が労働義務を履行しない場合に損害発 生の有無に拘わらず定めた「違約金」を支払わせるもので、労働者の退職自由が拘束され、いわゆる足留策に利用されたために禁止されたものです。また、「損害賠償額の予定」とは、債務不履行による実損害額のいかんにかかわらず、あらかじめ定められた損害賠償額を労働者が支払うものですが、実質的には「違約金」と変るところがありません。これらと異なり、例えば、故意にガラスを割ったので、その実損害額に応じて賠償請求することは法16条に抵触しません。また、海外留学費用を貸借契約とし、留学終了後一定期間勤務した場合に返還義務を免除することも、本条に抵触しません。

 

法第19条(解雇制限)

 

①使用者は、労働者が業務上負傷し、又は疾病にかかり療養のために休業する期間及びその後30日間並びに産前産後の女性が第65条の規定によって休業する期間及びその後30日間は、解雇してはならない。ただし、使用者が、第81条の規定によって打切補償を支払う場合又は天災事変その他やむを得ない事由のために事業の継続が不可能となった場合においては、この限りでない。

 

②前項但書後段の場合においては、その事由にっいて行政官庁の認定を受けなければならない。

 

則第7条〔解雇制限及び解雇予告の除外認定〕

法第19条第2項の規定による認定又は法第20条第1項但書前段の場合に同条第3項の規定により準用する法第19条第2項の規定による認定は様式第2号により、法第20条第1項但書後段の場合に同条第3項の規定により準用する法第19条第2項の規定による認定は様式第3号により、所轄労働基準監督署長から受けなければならない。

 POINT

 

 「やむを得ない事由」とは、「事業の経営者として、社会通念上採るべき必要な措置を以てしても通常如何ともなし難いような状況にある場合をいう」(昭63. 3 •14基発150)とされ、また、労働基準監督署長の認定を得る必要がありますので、親会社からのみ資材資金の供給を受けて事業を営む下請工場において現下の経済状勢から親会社自体が経営困難のために資材資金の獲得に支障を来たし、下請工場が所要の供給を受けることが出来ず事業の継続が不可能となった場合、「資材資金の獲得に支障を来たし」た程度では「やむを得ない事由」にあたらず、解雇はできないということです。

しかし理由はともあれ、事業を廃止してしまい賃金を払えないなど、「労働契約を継続させる実益がない」場合は、運用上「認定」せざるを得ないということでしょうか。もちろん、損害賠償請求など民事上の問題は別の問題です。

 

ケース 業務上負傷し又は疾病にかかり療養していた労働者が完全に治癒したのではないが、稼働し得る程度に回復したので出勤し、元の職場で平常通り稼働していたところ、使用者が就業後30日を経過してこの労働者を法第20条に定める解雇予告手当を支給して即時解雇した場合、法第19条に違反するか。

 

 設問の場合は、法第19条に抵触しない。

 POINT

法19条は、療養休業後30日間は解雇できないとしていま すが、「その後30日」というのは、休業する必要が認められなくなって出勤した日又は出勤し得る状態に回復した日から起算されるとし ています。本件では「稼働し得る程度に回復したので出勤し」となっており、出勤した日から30日後に予告手当を支給した上で解雇していますので、法19条の問題はおきないとしたものです。

労働者派遣契約の解除

派遣中の労働者の労働契約と当該派遣中の労働者を派遣している労働者派遣契約とは別個のものであり、派遣先による労働者派遣契約の解除について、労働基準法の解雇に関する規制が適用されることはない。したがって、派遣先が、派遣中の労働者の解雇制限期間中に労働者派遣契約を解除し、又は、予告期間なしに即時に解除することは労働基準法上の問題はないが、派遣元の使用者が当該派遣されていた労働者を解雇しようとする場合には、労働基準法が適用されるので、解雇制限期間中は解雇できず、また、解雇予告等の手続が必要となること。

労働基準法第19条及び20条における事業の継続が不可能であるかどうかの判断は、派遣元の事業について行われるので、仮に、当該派遣中の労働者が派遣されている派遣先の事業の継続が不可能となったとしても、これは該当しないこと。     

 

POINT

1つは、派遣元の派遣業会社が派遣先会社に従業員を派遣している場合に、派遣先会社が派遣契約を解除したり、予告期間なしに即時解雇したとしても、法19条の問題は生じません。派遣されている労働者は派遣先の従業員ではないからです。

 

しかし、派遣元会社が派遣先に派遣している労働者を即時解雇することは、法19条、20条の問題が生じます。もう1つの問題は、法19条、20条の解雇制限は派遣元会社には適用されますが、派遣先会社には適用されませんので、派遣先の「事業の継続が不可能となったとしても」法19条、20条の問題は生じないということです。

 

 20条(解雇の予告)

 

①使用者は、労働者を解雇しようとする場合においては、少くとも30日前にその予告をしなければならない。30日前に予告をしない使用者は、30日分以上の平均賃金を支払わなければならない。但し、天災事変その他やむを得ない事由のために事業の継続が不可能となった場合又は労働者の責に帰すべき事由に基いて解雇する場合においては、この限りでない。

 

②前項の予告の日数は、1日にっいて平均賃金を支払った場合においては、その日数を短縮することができる。

 

③前条第2項の規定は、第1項但書の場合にこれを準用する。

 20条(解雇の予告)

 

①使用者は、労働者を解雇しようとする場合においては、少くとも30日前にその予告をしなければならない。30日前に予告をしない使用者は、30日分以上の平均賃金を支払わなければならない。但し、天災事変その他やむを得ない事由のために事業の継続が不可能となった場合又は労働者の責に帰すべき事由に基いて解雇する場合においては、この限りでない。

 

②前項の予告の日数は、1日にっいて平均賃金を支払った場合においては、その日数を短縮することができる。

 

③前条第2項の規定は、第1項但書の場合にこれを準用する。

「労働者の責に帰すべき事由」とは、労働者の故意、過失又はこれと同視すべき事由であるが、判定に当っては、労働者の地位、職責、継続勤務年限、勤務状況等を考慮の上、総合的に判断すべきであり、「労働者の責に帰すべき事由」が法第20条の保護を与える必要のない程度に重大又は悪質なものであり、従って又使用者をしてかかる労働者に30日前に解雇の予告をなさしめることが当該事由と比較して均衡を失するようなものに限って認定すべきものである。

「労働者の責に帰すべき事由」として認定すべき事例を挙げれば、)       原則として極めて軽微なものを除き、事業場内における盗取、横領、傷害等刑法犯に該当する行為のあった場合、また一般的にみて「極めて軽微」な 事案であっても、使用者があらかじめ不祥事件の防止について諸種の手段を講じていたことが客観的に認められ、しかもなお労働者が継続的に又は断続的に盗取、横領、傷害等の刑法犯又はこれに類する行為を行った場合、あるいは事業場外で行われた盗取、横領、傷害等刑法犯に該当する行為であっても、それが著しく当該事業場の名誉もしくは信用を失ついするもの、取引関係に悪影響を与えるもの又は労使間の信頼関係を喪失せしめ (1るものと認めら れる場合。

⑵賭博、風紀紊乱等により職場規律を乱し、他の労働者に悪影響を及ぼす場合。また、これらの行為が事業場外で行われた場合であっても、それが著しく当該事業場の名誉もしくは信用を失ついするもの、取引関係に悪影響を与えるもの又は労使間の信頼関係を喪失せしめるものと認められる場合。

(3)雇入れの際の採用条件の要素となるような経歴を詐称した場合及び雇入の際、使用者の行う調査に対し、不採用の原因となるような経歴を詐称した場合。

⑷他の事業場へ転職した場合。

⑸ 原則として2週間以上正当な理由なく無断欠勤し、出勤の督促に応じない場合。

⑹ 出勤不良又は出欠常ならず、数回に亘って注意をうけても改めない場合。
の如くであるが、認定にあたっては、必ずしも右の個々の例示に拘泥することなく総合的かつ実質的に判断すること。
なお、就業規則等に規定されている懲戒解雇事由についてもこれに拘束されることはないこと
POINT
除外認定は、「労働者の責に帰すべき事由」が予告や予告手当を支払って解雇する必要のない程度に重大又は悪質なものに限って認めるべきとして、認定すべき事例を示したものです。なお、就業規則等に規定されている懲戒解雇事由であっても、これに拘束されずに、監督官は判断するとしています。企業にあっては、就業規則の条文や過去の処分例、同種事案の裁判例などを参考にして判断されることが必要です。

採用通知後における採用の取消

新規学校卒業者の求職者に対し、求人者が採 用通知をした後その採用を取り消している事例が多数発生しているが、左〔下記〕の各号のそれぞれの場合における労働基準法第20条適用の有無とその理由について。

㈠ 採用通知(内定通知を含む)をした後本人の赴任(出社を含む。以下同じ) 前にその採用を取り消したすべての場合。

㈡ 客観的に雇用契約締結の日を明らかにしていないが、赴任の日を指定してある採用通知をした後本人の赴任前にその採用を取り消した場合。

(注)この場合の採用通知の例

 貴殿を採用致しました。(又は採用することに決定しました。)ついては4月1日に赴任して下さい。

㈢ 客観的に見て、雇用契約締結の日も明かでなく、又赴任の日も未定の採用通知をした後本人の赴任前にその採用を取り消した場合。

(注)この場合の採用通知の例

貴殿を採用致しました。(又は採用することに決定しました。)赴任の日につきましては追て御通知致します。

㈣ 雇用契約締結の日を明らかにしている採用通知をした後その日以後本人の赴任前にその採用を取り消した場合。

(注)この場合の採用通知の例

 3月20日附をもって当社職員として発令(又は採用決定)されました。ついては御都合次第御赴任願います。

㈤ 採用通知を受けた者が赴任したが実際には1日も働いていない間に採用を取り消した場合。

対応

労働契約は労働者が労務の提供をなし、使用者がこれに対して報酬を支払 うことにつき合意が成立することによって有効となるものと解され、労働者が当該契約に基き現実に労務の提供をするまでは労働契約は有効に成立しないものではない。従って会社の採用通知が労働契約締結についての労働者の申込に対して労働 契約を完成せしめる使用者の承諾の意思表示としてなされたものであれば、会社の採用通知によって労働契約は有効に成立し事後における会社の採用取消通知は有効に成立した労働契約解除の通知であると解されるので、この場合には労働基準法第20条が適用される。又会社の採用通知が労働契約締結についての承諾の意思表示ではなく、労働 契約締結の予約であれば、その意思表示によっては未だ労働契約そのものは有効に成立せず、従って事後における会社の採用取消通知は労働契約そのものの解除ではないから、この場合には、労働基準法第20条の適用はない。

従って設例の場合、会社の採用通知が労働契約そのものを完成せしめる使用者の承諾の意思表示であるか又は労働契約締結の予約であるかは、具体的な個々の事情、特に採用通知の文言、当該会社の労働協約、就業規則等の採用手続に関する定め、及び従来の取扱慣例による採用通知の意味等について綜合的に判断して決定されるべきものであるが、なお一応次の如く解される。

㈠ 採用通知が何等の条件を附することなくなされた場合(赴任又は出社について特段の指示なき場合又は内定通知の場合)には、一般には労働契約締結の予約と認められる要素が強いと思われるが、なお従来の慣例その他を勘案して決定されるべきものである。

㈡採用通知に赴任の日が指定されている場合には、一般にはその採用通知が発せられた日に労働契約は成立したと認められる要素が強いものと思われるが、なお、従来の慣例その他を勘案して決定されるべきものである。

㈢採用通知に赴任又は出社の日が特定されていない場合については㈠に同じ

㈣雇用契約締結の日を明示して採用通知がなされた場合は、一般には労働契約はその日に有効に成立しているものと解されるから、その日以後における
採用取消通知は本人の赴任前(現実に就労するまでの期間)であっても解雇の意思表示であると解され、従って労働基準法第20条の適用がある。

⑸採用通知その他によって雇用契約締結の日が明示されているか、赴任又は出社の日が特定されているか又はそのような定めが全くなされていないかにより、夫々前記㈣、㈡、又は㈠によるべきものと解される。

POINT

採用通知が赴任日や赴任場所について何らの条件がついていない場合(hの場合)など具体的に通知していない場 合は、労働契約は成立せず「予約」である要素が強いとしています。

これに関し、大日本印刷事件(最判昭54. 7 .20判時938, 3)では、採用内定通知は採用申し込みに対する「承諾」であって、労働者の誓約書の提出

とあいまって誓約書記載の採用内定取消事由に基づく解約権を留保した労働契約が成立したとしています。

 

 育児休業中の解雇

 

育児休業法第7条〔現:育児•介護休業法10条〕は、労働者が休業申出をし、又は育児休業をしたことを理由とする解雇を制限したものであり、育児休業期間中の解雇を一般的に制限したものではなく、育児休業期間中の労働者を解雇しようとする場合には法第20条に規定する手続が必要であること。

POINT

育児•介護休業法の解雇制限は、育児休業や介護休業のFUJJVlJ権利行使を保障するものであって、休業中の解雇を一般的に制限したものではありません。解雇権の濫用にあたらないかぎり、例えば会社の経営不振を理由に育児休業中の労働者を解雇することは可能です。


 解雇予告の支払時期

 法第20条による解雇予告手当にかかわる30日以上の平均賃金は解雇の申し渡しと同時に支払うべきである。

 

退職時等の証明の請求・交付

第22条(退職時等の証明)

① 労働者が、退職の場合において、使用期間、業務の種類、その事業における地位、賃金又は退職の事由(退職の事由が解雇の場合にあっては、その理由を含む。)にっいて証明書を請求した場合においては、使用者は、遅滞なくこれを交付しなければならない。

② 労働者が、第20条第1項の解雇の予告がされた日から退職の日までの間において、当該解雇の理由にっいて証明書を請求した場合においては、使用者は、遅滞なくこれを交付しなければならない。ただし、解雇の予告がされた日以後に労働者が当該解雇以外の事由により退職した場合においては、使用者は、当該退職の日以後、これを交付することを要しない。

③ 前2項の証明書には、労働者の請求しない事項を記入してはならない。

④ 〔省略〕

平成11年の改正により、退職の場合に請求できる証明事項に退職の事由が追加され(法22条1項)、また、平成15年の改正により、解雇予告がなされた日から退職の日までの間において労働者は「解雇理由の証明書の請求」ができる旨の条文が明記されました(法22条2項)。

この通達では、「退職の事由」は解雇も含まれることを明らかにしています。

「退職の事由」が解雇の場合には、「解雇」と書くだけではなく、解雇の理由、例えば、「整理解雇」とか「倒産」「職務命令違反」なども書くことが必要です。

 解雇の理由を含めた「退職の事由」はもちろん、退職証明の記載事項は、労働者の請求した事項のみを記入すべきで、たとえ法定事項であっても、労働者の請求しない事項は記載してはいけません

 

就業規則について

 

就業規則の記載事項

 89条(作成及び届出の義務)

常時10人以上の労働者を使用する使用者は、次に掲げる事項について就業規則を作成し、行政官庁に届け出なければならない。次に掲げる事項を変更した場合においても、同様とする。

一 始業及び終業の時刻、休憩時間、休日、休暇並びに労働者を2組以上に分けて交替に就業させる場合においては就業時転換に関する事項

二賃金(臨時の賃金等を除く。以下この号において同じ。)の決定、計算及び支払の方法、賃金の締切り及び支払の時期並びに昇給に関する事項

三退職に関する事項(解雇の事由を含む。)

三の二 退職手当の定めをする場合においては、適用される労働者の範囲、退職手当の決定、計算及び支払の方法並びに退職手当の支払の時期に関する事項

四 臨時の賃金等(退職手当を除く。)及び最低賃金額の定めをする場合においては、これに関する事項

五労働者に食費、作業用品その他の負担をさせる定めをする場合においては、これに関する事項

六安全及び衛生に関する定めをする場合においては、これに関する事項

七 職業訓練に関する定めをする場合においては、これに関する事項

八災害補償及び業務外の傷病扶助に関する定めをする場合においては、これに関する事項

九表彰及び制裁の定めをする場合においては、その種類及び程度に関する事項

十前各号に掲げるもののほか、当該事業場の労働者のすべてに適用される定めをする場合においては、これに関する事項

 

893号は、就業規則の絶対的必要記載事項を定めて従前までは、「退職に関する事項」でしたが、平成16年施行の改正法において、「(解雇事由を含む)」との文言が追加されました。一般的には、「退職」といえば、労働者からの自己都合退職や期間満了によ る退職、あるいは定年退職等をいうもので、使用者からの「解雇」は含まれないと理解されますが、法893号の「退職に関する事項」にいう「退職」は、解雇を含む労働契約の終了する、すべての事由を指すと解されてきました。

しかし、日常用語としての退職の一般的理解と、法893号のいう退職の 解釈との間に乖離があることは好ましいことではありませんから、平成16
施行の改正法において、法18条の2に解雇ルールに関する条項を設けるとともに、解雇事由は、就業規則の絶対的必要記載事項であることを法文上明確に定めましたが、その後、労働契約法が制定され、その内容は労働契約法16条に移行され、法18条の2は削除されました。

 

このように、解雇事由が就業規則の絶対的必要記載事項でありますから、就業規則の定める解雇事由は、限定列挙か、例示列挙か、という議論のあることに留意すべきです。また、則5条でも、労働契約の締結に際して、書面の交付により明示する べき労働条件としての「退職に関する事項」に「(解雇の事由を含む)」との文言が追加されました。

就業規則の周知義務

就業規則や労使協定は常時各事業場の見やすい場所へ掲示し、又は備えること、書面を交付すること、その他の厚生労働省令で定める方法によって労働者に周知させねばなりません。周知方法は以下になります。

  1. 常時各事業場の見やすい場所へ掲示し、又は備え付けること
  2. 書面を労働者に交付すること
  3. 磁気テープ、磁気ディスクその他これらに準ずる物に記録し、かつ各事業場に労働者が当該記録の内容を乗じ確認できる機器を設置すること。

 

 

賃金について

賃金

労働基準法上の賃金、給料、手当、賞与、その他、名称を問わず、労働の対象として使用者が労働者に支払うものである。

労働協約、就業規則、労働契約等によってあらかじめ支給条件が明快である場合の退職手当は法第11条の賃金であり法第24条第2項の「臨時の賃金」にあたります。

休業補償は賃金ではありませんが、休業手当は賃金になります。

食事提供、は就業規則や雇用契約書に規定されてれば、賃金となります。

私有自動車の借上げは維持費として支給される定額金額は実費弁済と解されます。私有自動車維持費支給規程等作成が必要です。

 

法第24条賃金の支払いは

賃金は直接労働者に通貨で支払わなければなりません。法令や労働協約の別段の定めがある場合は又は厚生労働省令で定めるものは通貨以外で支払いができます。労働協約は労働組合と会社との労使協定です。労働組合が設立されていない事業場は通貨以外で賃金を支払うことは認められていません。確認しましょう。

 

賃金の全額払い

賃金控除は、購買代金、社宅、料、その他の福利、厚生施設の費用、社内預金、組合費等、事理明白なものについてのみ、労使協定によって賃金から控除することを認められています。

 

割増賃金計算における端数処理

 

1か月における時間外労働、休日労働及び深夜業の各々の時間数の合計に1時間未満の端数がある場合に、30分未満の端数を切り捨て、それ以上を1時間に切り上げること。次の方法は、常に労働者の不利となるものではなく、事務簡便を目的としたものと認められるから、法第24条及び第37条違反としては取り扱わない。

 

1時間当たりの賃金額及び割増賃金額に円未満の端数が生じた場合、50銭未満の端数を切り捨て、それ以上を1円に切り上げること。

1か月における時間外労働、休日労働、深夜業等の各々の割増賃金の総額に1円未満の端数が生じた場合、2と同様に処理すること。

 割増賃金の計算にあたっては、端数がどうしても生じます。端数処理は切捨ての場合もあれば、切上げの場合もあり、常に労働者の不利とはいえず、また会社の事務処理上の必要もあります。

例えば、1カ月の時間外労働、休日、深夜労働の合計が35時間25分の場合は(30分未満なので)切り捨てて、35時間とし、35時間40分のときは、切り上げて36時間とする。

1時間の割増賃金が850.40円の場合は850円とし、850,55円の場合は851円とする。

1ヶ月あたりの時間外労働・休日労働、深夜業の割増賃金の総額が20,850.49円ならば20,850円、20,850.55円ならば20,851円とする。

賃金の毎月一定期払い

 法第24条 2項賃金は毎月一定の期日を定めて支払わなければならない。ただし、臨時に支払われる賃金、賞与その他これに準ずるもので厚生労働省令で定める賃金については、この限りではない。

 

休業手当

法第26条 使用者の責に帰すべき事由による休業の場合においては、使用者は、休業期間中当該労働者に、その平均賃金の100分の60以上の手当を支払わねばならない。

 

使用者の責に帰すべき事由とは例を挙げると①親会社のの経営難から資材資金の獲得ができず休業する場合、使用者の責に帰すべき事由と認められないものに①争議行為による作業所閉鎖などです。

出来高払い制の保障給

法第27条 出来高払い制その他請負制で使用する労働者については、使用者は、労働時間に応じて一定額の保障をしなければならない。

 

 平均賃金

① この法律で平均賃金とは、これを算定すべき事由の発生した日以前3箇月間 にその労働者に対し支払われた賃金の総額を、その期間の総日数で除した金額をいう。ただし、その金額は、次の各号のいずれかによって計算した金額を下つてはならない。

 

一  賃金が、労働した日若しくは時間によって算定され、又は出来高払制その他の請負制によって定められた場合においては、賃金の総額をその期間中に労働した日数で除した金額の100分の60

二  賃金の一部が、月、週その他一定の期間によって定められた場合においては、その部分の総額をその期間の総日数で除した金額と前号の金額の合算額

 ⓶ ③(省略)

「平均賃金を算定すべき事由の発生した日以前3箇月」とは、事由の 発生した日の前日から遡る3か月間で、事由の発生した日は含まれません。

* 2 「賃金の総額」とは、原則として法11条に規定された全ての賃金をいいます。

 

 1日平均賃算定に当たり、銭未満の端数が生ずるときはこれを切り捨て、各種補償等においては右(上記9に所定日数を乗じてその総額を算出します。

 

算定起算日

①の期間は、賃金締切日がある場合は直前の賃金締切日から起算します。

 

平均賃金算定の基礎となる賃金

④ ①の賃金総額には、臨時に支払われた賃金及び、3箇月を超える期間ごとに支払われる賃金並びに通貨以外のもので支払われた賃金で一定の範囲に属しないものは参入しない。

⑤賃金が通貨以外のもので支払われる場合、賃金の総額に算入すべきものの範囲及び評価に関し必要な事項は、厚生労働省令で定める。

 

労働時間・休憩・休日について

 

法第32条 ①使用者は、労働者に、休憩時間を除く1週間について40時間を超えて、労働させてはならない。

⓶使用者は、、1週間の各日にいては、労働者に休憩時間を除き1日について8時間を超えて、労働させてはならない。

 

労働基準法の労働時間の規制はあくまで実労働時間が前提となります。

 

1週間の法定労働時間と1日の法定労働時間

 

法第32条第1項で1週間の法定労働時間を規定し、同条第2項で1日の法定労働時間を規定することとしたが、これは、労働時間の規制は1週間単位の規制を基本として1週間の労働時間を短縮し、1日の労働時間は1週間の労働時間を各日に割り振る場合の上限として考えるという考え方によるものであること。

1週間の法定労働時間と1日の法定労働時間とを項を分けて規定することとしたが、いずれも法定労働時間であることに変わりはなく、使用者は、労働者に、法定除外事由なく、1週間の法定労働時間及び1日の法定労働時間を超えて労働させてはならないものであること。

なお、1週間とは、就業規則その他に別段の定めがない限り、日曜日から土曜日までのいわゆる暦週をいうものであること。また、1日とは、午前〇時から午後12時までのいわゆる暦日をいうものであり、継続勤務が2暦日にわたる場合には、たとえ暦日を異にする場合でも1勤務として取り扱い、当該勤務は始業時刻の属する日の労働として、当該日の「1日」の労働とするものであること。 (昭63 •1•1基発1「1」(2))

労働時間の適正な把握のために使用者が講ずべき措置に関するガイドライン

 

対象となる労働者の範囲  

管理監督者(労基法41条)、みなし労働時間制が適用される労働者以外が時間管理の対象.

ただし、上記の者についても健康管理のために適正な時間管理が必要

労働時間の考え方

 使用者の指揮命令下に置かれている時間で、使用者の明示・黙示の指示に  より労働者が業務に従事する時間  

 •業務に必要な準備行為(着用を義務付けられた所定の服装への着替え等)

•業務終了後の業務に関連した後始末(清掃等)を事業場内において行った時間

•指示があった場合には即時に業務に従事することを求められており、労働から離れることが保障されていない状態で待機等している時間(いわゆる「手待時間」)

•参加することが業務上義務づけられている研修・教育訓練の受講

•指示により業務に必要な学習等を行っていた時間

 始業・終業時刻の確認及び記録方法

•使用者が、自ら現認することにより確認し、適正に記録する

•タイムカード、ICカード、パソコンの使用時間の記録等の客観的な記録を基礎として確認し、適正に記録すること

 

テレワークを行う労働者における留意点

 

i)労働時間の適正な把握

通常の労働時間制度に基づきテレワークを行う場合についても、使用者は、その労働者の労働時間について適正に把握する責務を有し、みなし労働時間制が適用される労働者や労働基準法第41条に規定する労働者を除き、「労働時間の適正な把握のために使用者が講ずべき措置に関するガイドライン」(平成29年1月20日策定)に基づき、適切に労働時間管理を行わなければならない。

同ガイドラインにおいては、労働時間を記録する原則的な方法として、パソコンの使用時間の記録等の客観的な記録によること等が挙げられている。また、やむを得ず自己申告制によって労働時間の把握を行う場合においても、

同ガイドラインを踏まえた措置を講ずる必要がある。

 

(ii)テレワークに際して生じやすい事象

 テレワークについては、以下のような特有の事象に留意する必要がある。

 

①   いわゆる中抜け時間について

 

在宅勤務等のテレワークに際しては、一定程度労働者が業務から離れる時間が生じやすいと考えられる。

 そのような時間について、使用者が業務の指示をしないこととし、労働者が労働から離れ、自由に利用することが保障されている場合には、その

開始と終了の時間を報告させる等により、休憩時間として扱い、労働者のニーズに応じ、始業時刻を繰り上げる、又は終業時刻を繰り下げることや、その時間を休憩時間ではなく時間単位の年次有給休暇として取り扱うことが考えられる。なお、始業や終業の時刻の変更が行われることがある場合には、その旨を就業規則に記載しておかなければならない。また、時間単位の年次有給休暇を与える場合には、労使協定の締結が必要である。

②   通勤時間や出張旅行中の移動時間中のテレワークについてテレワークの性質上、通勤時間や出張旅行中の移動時間に情報通信機器を用いて業務を行うことが可能である。

これらの時間について、使用者の明示又は黙示の指揮命令下で行われるものについては労働時間に該当する。

③   勤務時間の一部でテレワークを行う際の移動時間について午前中だけ自宅やサテライトオフィスで勤務をしたのち、午後からオフィスに出勤する場合等、勤務時間の一部でテレワークを行う場合がある。

こうした場合の就業場所間の移動時間が労働時間に該当するのか否かについては、使用者の指揮命令下に置かれている時間であるか否かにより、

個別具体的に判断されることになる。

使用者が移動することを労働者に命ずることなく、単に労働者自らの都合により就業場所間を移動し、その自由利用が保障されているような時間

については、休憩時間として取り扱うことが考えられる。ただし、その場合であっても、使用者の指示を受けてモバイル勤務等に従事した場合には、その時間は労働時間に該当する。

  

 


労働時間設定改善

労働時間設定改善法第2条(事業主等の責務)

①事業主は、その雇用する労働者の労働時間等の設定の改善を図るため、業務 の繁閑に応じた労働者の始業及び終業の時刻の設定、健康及び福祉を確保する ために必要な終業から始業までの時問の設定、年次有給休暇を取得しやすい環 境の整備その他の必要な措置を講ずるように努めなければならない。 2 事業主は、労働時間等の設定に当たっては、その雇用する労働者のうち、そ の心身の状況及びその労働時間等に関する実情に照らして、健康の保持に努め る必要があると認められる労働者に対して、休暇の付与その他の必要な措置を 講ずるように努めるほか、その雇用する労働者のうち、その子の養育又は家族 の介護を行う労働者、単身赴任者(転任に伴い生計を一にする配偶者との別居 を常況とする労働者その他これに類する労働者をいう〇)、自ら職業に関する教 育訓練を受ける労働者その他の特に配慮を必要とする労働者について、その事 情を考慮してこれを行う等その改善に努めなければならない。 3 事業主の団体は、その構成員である事業主の雇用する労働者の労働時間等の 設定の改善に関し、必要な助言、協力その他の援助を行うように努めなければ ならない。 4 事業主は、他の事業主との取引を行う場合において、著しく短い期限の設定 及び発注の内容の頻繁な変更を行わないこと、当該他の事業主の講ずる労働時 問等の設定の改善に関する措置の円滑な実施を阻害することとなる取引条件を 付けないこと等取引上必要な配慮をするように努めなければならない。

 

 

労働時間等設定改善指針 (平20・3・24)最終改正 平30厚労告375

2 事業主等が講ずべき労働時間等の設定の改善のための措置

事業主等は、労働時間等の設定の改善を図るに当たり、1の基本的考え方を踏まえつつ、労動者と十分に話し合うとともに、経営者の主導の下、次に掲げる措置その他の労働者の健康と生活に配慮した措置を講ずるよう努めなければならない。

(1) 事業主が講ずべき一般的な措置

イ 実施体制の整備

(イ) 実態の把握

事業主が労働時間等の設定の改善を図るためには、まず、自己の雇用する労働者の労働時間等の実態について適正に把握していることが前提となる。したがって、事業主は、その雇用する労働者の始業・終業時刻、年次有給休暇の取得、時間当たりの業務負担の度合い等労働時間等の実態を適正に把握すること。

(ロ) 労使間の話合いの機会の整備

労働時間等の設定の改善は、それぞれの労働者の抱える事情や企業経営の実態を踏まえ、企業内における労使の自主的な話合いに基づいて行われるべきものである。また、それぞれの企業の実情に通じた労使自身の主体的な関与がなければ、適切な労働時間等の設定の改善はなしえない。したがって、労働時間等の設定の改善に関して、企業内において労使間の十分な話合いが行われることが必要である。

こうした趣旨に基づき、法において企業内の労働時間等の設定の改善に係る実施体制の整備について事業主の努力義務が定められていることを踏まえ、事業主は、労働時間等設定改善委員会及び労働時間等設定改善企業委員会(以下「設定改善委員会等」という。)をはじめとする労使間の話合いの機会を整備すること。

また、このような労使間の話合いの機会を設けるに当たっては、次に掲げる事項に留意すること。

① 設定改善委員会等の構成員について、労働者の抱える多様な事情が反映されるよう、性別、年齢、家族構成等並びに育児・介護、自発的な職業能力開発等の経験及び知見に配慮することが望ましいこと。

② 設定改善委員会等の決議は、一定の要件を満たすことを条件に、労働基準法(昭和22年法律第49号)上の労働時間等に関する規定に係る特例が認められているので、必要に応じてその活用を図ること。

(ハ) 個別の要望・苦情の処理

労働時間等の設定の改善を図るためには、事業主が、労働者各人からの労働時間等に係る個別の要望・苦情に誠意をもって耳を傾け、善後策を講じることが必要である。このため、事業主は、このような要望・苦情に応じるための担当者の配置や処理制度の導入を図ること。

(ニ) 業務の見直し等

労働時間等の設定の改善を図るに当たっては、業務内容や業務体制の見直し、生産性の向上等により、より効率的に業務を処理できるようにすることが必要である。このため、事業主は、必要に応じて、業務計画の策定等による業務の見直しや要員確保等を図ること。

(ホ) 労働時間等の設定の改善に係る措置に関する計画

労働時間等の設定の改善をより確実にするには、計画的な取組が望ましい。このため、事業主は、具体的な措置の内容、導入・実施の予定等に係る計画を作成し、これに基づいて、労働時間等の設定の改善を推進すること。この場合、労働時間等の設定の改善に係る措置についての具体的な目標を、それぞれの事情を踏まえつつ、自主的に設定することが望ましい。なお、計画の策定に当たっては、労使間の話合いの機会の重要性に鑑み、設定改善委員会等をはじめとする労使間の話合いの機会において労働者の意見を聴くなど、労働者の意向を踏まえたものとするようにすること。また、策定された計画については、随時、その効果を検証し、必要に応じて見直しを行うこと。

ロ 労働者の抱える多様な事情及び業務の態様に対応した労働時間等の設定

業務の閑散期においても繁忙期と同様の労働時間等の設定を行うことは、事業主にとっても、労働者にとっても得るものが少ない。このため、時季や日に応じて業務量に変動がある事業場については、変形労働時間制、フレックスタイム制を活用すること。特に、年間を通しての業務の繁閑が見通せる業務については、1年単位の変形労働時間制を活用して、労働時間の効率的な配分を行うこと。また、フレックスタイム制の活用に当たっては、労働者各人が抱える多様な事情を踏まえ、生活時間の確保にも十分な配慮をすること。

また、業務の進め方について労働者の創造性や主体性が必要な業務については、労働時間等の設定についても、労働者の裁量にゆだねることが業務の効率的な遂行につながり、労働者の生活時間の確保にも資する場合がある。このため、事業主は、そのような業務に携わる労働者については、専門業務型裁量労働制、企画業務型裁量労働制の活用も検討すること。裁量労働制を活用する場合には、労働者が抱える多様な事情に配慮するとともに、自己の雇用する労働者の労働実態を適切に把握し、必要に応じて、年次有給休暇の取得奨励や労働者の健康に十分配慮した措置を講ずること。

ハ 年次有給休暇を取得しやすい環境の整備

(イ) 年次有給休暇の重要性

労働者が心身の疲労を回復させ、健康で充実した生活を送るためには、原則として労働者がその取得時季を自由に設定できる年次有給休暇の取得が必要不可欠である。また、育児・介護等に必要な時間の確保にも資すると考えられる。特に、労働者が仕事を重視した生活設計をすることにより、労働が長時間に及ぶ場合においては、年次有給休暇の取得が健康の保持のために重要である。

しかしながら、年次有給休暇については、周囲に迷惑がかかること、後で多忙になること、職場の雰囲気が取得しづらいこと等を理由に、多くの労働者がその取得にためらいを感じている。逆に、その取得にためらいを感じない労働者がその理由として掲げているのは、職場の雰囲気が取得しやすいこと等となっている。

年次有給休暇の取得は、企業の活力や競争力の源泉である人材がその能力を十分に発揮するための大きな要素であって、生産性の向上にも資するものであり、企業にとっても大きな意味を持つものである。さらに、その取得率が向上すれば、経済・雇用面への効果も期待できる。

(ロ) 年次有給休暇に対する意識の改革に向けた措置

(イ)を踏まえ、事業主は、年次有給休暇の完全取得を目指して、経営者の主導の下、取得の呼びかけ等による取得しやすい雰囲気づくりや、労使の年次有給休暇に対する意識の改革を図ること。

① 年次有給休暇管理簿の作成・周知

年次有給休暇の取得促進を図るに当たっては、労働者のみならず、当該労働者の業務の遂行を指揮命令する職務上の地位にある者も当該労働者の年次有給休暇の取得状況を把握することが重要である。労働基準法施行規則(昭和22年厚生省令第23号)第24条の7の規定により、年次有給休暇管理簿の作成が義務付けられているところ、使用者は年次有給休暇管理簿を作成するのみならず、年次有給休暇管理簿の確認を行い、年次有給休暇の取得状況を労働者及び当該労働者の業務の遂行を指揮命令する職務上の地位にある者に周知すること。

また、労働者の業務の遂行を指揮命令する職務上の地位にある者が、取得が進んでいない労働者に対して、業務の負担軽減を図る等労務管理上の工夫を行い、年次有給休暇の取得につなげるなど、年次有給休暇の取得促進に年次有給休暇管理簿を活用すること。

② 計画的な年次有給休暇の取得

計画的な年次有給休暇の取得は、年次有給休暇取得の確実性が高まり、労働者にとっては予定どおりの活動を行いやすく、事業主にとっては計画的な業務運営を可能にする等効用が高い。したがって、年次有給休暇の取得促進を図るためには、特に、計画的な年次有給休暇取得の一層の推進を図ることが重要である。

計画的な年次有給休暇の取得には、労使間で1年間の仕事の繁閑や段取り及び当面達成すべき目標としての取得率の目安を話し合うことが必要であり、労使双方にとって合理的な仕事の進め方を理解し合うためにも有益な手段であると考えられる。

事業主は、業務量を正確に把握した上で、労働者ごとの基準日や年度当初等に聴取した希望を踏まえた個人別年次有給休暇取得計画表の作成、年次有給休暇の完全取得に向けた取得率の目標設定の検討及び業務体制の整備を行うとともに、取得状況を把握すること。あわせて、労働基準法第39条第6項の規定に基づく年次有給休暇の計画的付与制度の活用を図り、その際、連続した休暇の取得促進に配慮するとともに、当該制度の導入に向けた課題及び解決策について検討すること。

また、設定改善委員会等をはじめとする労使間の話合いの機会において年次有給休暇の取得状況を確認する制度を導入するとともに、取得率向上に向けた具体的な方策を検討すること。

なお、同条第7項において、使用者は、原則として年次有給休暇の日数のうち5日(同条第5項又は第6項の規定により労働者の請求等に従って年次有給休暇を与えた場合にあっては、当該与えた有給休暇の日数分を除く。)については、時季を指定して与えることとされており、計画的な年次有給休暇の取得に係る取組は当該義務を果たすことにもつながるものであることから、十分に取り組むことが必要である。

③ 年次有給休暇の連続取得

プラスワン休暇(週休日等に年次有給休暇を組み合わせた連続休暇をいう。)や週休日等と年次有給休暇とを組み合わせた1週間から2週間程度の連続した長期休暇の取得促進を図ること。その際、当該事業場の全労働者が長期休暇を取得できるような制度の導入に向けて検討するとともに、取得時期については、休暇中の渋滞、混雑の緩和、労働者の経済的負担の軽減などの観点から分散化を図り、より寛げる休暇となるよう配慮すること。

④ 年次有給休暇の時間単位付与制度等

労働基準法第39条第4項の規定に基づく年次有給休暇の時間単位付与制度(以下「時間単位付与制度」という。)の活用や、半日単位での年次有給休暇の利用について、連続休暇取得及び1日単位の取得の阻害とならない範囲で、労働者の希望によるものであることを前提としつつ、検討すること。

⑤ 年次有給休暇の早期付与

仕事と生活の調和や、労働者が転職により不利にならないようにする観点から、労働基準法第39条第1項及び第3項に規定する雇入れ後初めて年次有給休暇を与えるまでの継続勤務期間を短縮すること、同条第2項及び第3項に規定する年次有給休暇の最大付与日数に達するまでの継続勤続期間を短縮すること等について、事業場の実情を踏まえ検討すること。

⑥ 子どもの学校休業日等に合わせた年次有給休暇の取得促進

地域の実情に応じ、労働者が子どもの学校休業日や地域のイベント等に合わせて年次有給休暇を取得できるよう配慮すること。

ニ 時間外・休日労働の削減

時間外・休日労働は、通常予見することのできない業務量の大幅な増加等に伴い臨時的に行うものである。事業主は、その雇用する労働者の健康で充実した生活のため、労働時間に関する意識の改革、「ノー残業デー」又は「ノー残業ウィーク」の導入・拡充等により、今後とも時間外・休日労働の削減を図ること。特に、休日労働を避けること。また、時間外・休日労働を行わせた場合には、代休の付与等により総実労働時間の短縮を図ること。労働者が私生活を重視した生活設計をし、時間外・休日労働を望まない場合は、時間外・休日労働の削減について一層の配慮をすること。

また、時間外労働についての上限は、労働基準法第36条第3項の規定に基づき原則として月45時間及び年360時間であり、臨時的な特別の事情があって労使が合意する場合でも、上限は年720時間であり、その範囲内において①複数月の平均では休日労働を含んで80時間以内、②単月では、休日労働を含んで100時間未満、③同項の限度時間(以下「限度時間」という。)を超えることができる月数は、1年について6か月以内に限られ、これらに違反する場合は同法の規定による罰則の適用があることに留意すること。なお、労働基準法第三十六条第一項の協定で定める労働時間の延長及び休日の労働について留意すべき事項等に関する指針(平成30年厚生労働省告示第323号)に基づき、時間外・休日労働について、次に掲げる事項に留意すること。

(イ) 時間外・休日労働協定において限度時間を超えて労働させることができる場合を定めるに当たっては、当該事業場における通常予見することのできない業務量の大幅な増加等に伴い臨時的に限度時間を超えて労働させる必要がある場合をできる限り具体的に定めなければならず、「業務の都合上必要な場合」、「業務上やむを得ない場合」など恒常的な長時間労働を招くおそれがあるものを定めることは認められないこと。

(ロ) 時間外・休日労働協定については、原則として限度時間を超えないものとされていることに十分留意し、業務の見直し等により、一箇月について労働時間を延長して労働させ、及び休日において労働させることができる時間等を限度時間にできる限り近づけるように努めなければならないこと。

(ハ) 時間外・休日労働協定において限度時間を超えて労働時間を延長して労働させることができる時間に係る割増賃金の率を定めるに当たっては、法定割増賃金率を超える率とするように努めなければならないこと。

(ニ) 時間外・休日労働協定において休日の労働を定めるに当たっては労働させることができる休日の日数をできる限り少なくし、及び休日に労働させる時間をできる限り短くするように努めなければならないこと。

ホ 労働時間の管理の適正化

近年、業務の困難度の高さとあいまって、時間的に過密な業務の運用により、労働者に疲労の蓄積や作業の誤りが生じ、健康障害や重大な事故につながることが懸念されている。また、時間的に過密な業務の運用は、生産性の向上を阻害しかねない。このため、事業主は、時間的に過密とならない業務の運用を図ること。

ヘ 多様な正社員、ワークシェアリング、テレワーク等の活用

事業主は、多様な働き方の選択肢を拡大するため、労働時間等が限定された多様な正社員として勤務する制度やワークシェアリングの導入に努めること。

多様な正社員としての働き方は、育児・介護等の事情により長時間労働が困難な者について、就業機会の付与とその継続、能力の発揮を可能とする働き方である。

その活用に当たっては、人事労務管理、経営状況等の事情も踏まえ、当該制度の導入の可否、制度の内容及び処遇については、各企業や事業場において労使で十分に話し合うことが必要である。

また、テレワークは、職住近接の実現による通勤負担の軽減に加え、多様な働き方の選択肢を拡大するものであり、働く意欲を有する者が仕事と生活を両立させつつ、能力を発揮できるようにするためにも、その活用を図ること。

その際には、厚生労働省労働基準局長及び雇用環境・均等局長が定めた「情報通信技術を利用した事業場外勤務の適切な導入及び実施のためのガイドライン」に基づき、適切な労務管理の下でのテレワークの実現を図ること。また、テレワークの制度を適切に導入するに当たっては、労使で認識に齟齬が生じないように、あらかじめ導入の目的、対象となる業務及び労働者の範囲、テレワークの方法等について、労使で十分に協議することが望ましいこと。さらに、実際にテレワークを行うか否かは本人の意思によることとすべきであること。

ト 終業及び始業の時刻に関する措置

(イ) 深夜業の回数の制限

深夜業(交替制勤務による夜勤を含む。以下同じ。)は、通常の労働時間と異なる特別な労働であり、労働者の健康の保持や仕事と生活の調和を図るためには、これを抑制することが望ましいことから、深夜業の回数を制限することを検討すること。

(ロ) 勤務間インターバル

勤務間インターバル(前日の終業時刻と翌日の始業時刻の間に一定時間の休息を確保することをいう。以下同じ。)は、労働者の生活時間や睡眠時間を確保し、労働者の健康の保持や仕事と生活の調和を図るために有効であることから、その導入に努めること。なお、当該一定時間を設定するに際しては、労働者の通勤時間、交替制勤務等の勤務形態や勤務実態等を十分に考慮し、仕事と生活の両立が可能な実効性ある休息が確保されるよう配慮すること。

(ハ) 朝型の働き方

一定の時刻以降に働くことを禁止し、やむを得ない場合は始業前の朝の時間帯に業務を処理する等のいわゆる朝型の働き方は、勤務間インターバルと同様の効果をもたらすと考えられることから、その導入を検討すること。

なお、やむを得ず時間外労働を行った場合は、割増賃金を適切に支払わなければならないことに留意するとともに、時間外労働をできる限り短くするよう努めること。

チ 国の支援の活用

事業主が以上の取組を進めるに当たっては、事業主の労働時間等の設定の改善を促進するため国が行う支援制度を積極的に活用すること。

また、労働時間等の設定の改善に係る措置に関する計画については、同業他社と歩調をそろえてこのような計画を作成し、実施することが効果的と考えられる。このため、同一の業種に属する複数の事業主が共同して労働時間等設定改善実施計画を作成する場合には、法により国の支援が行われるので、そうした支援制度を積極的に活用すること。

(2) 特に配慮を必要とする労働者について事業主が講ずべき措置

労働者各人の健康と生活に配慮するには、その前提として、事業主が、2(1)イ(イ)に記した労働時間等の実態を把握することに加え、個人情報の保護に関する法律(平成15年法律第57号)等を遵守しつつ、労働者各人について配慮すべき事情を、必要に応じて、把握することが望ましい。なお、このような労働者各人の事情を理由として、その労働者に対して不利益な取扱いをしないこと。

イ 特に健康の保持に努める必要があると認められる労働者

事業主は、特に健康の保持に努める必要があると認められる労働者についても、労働安全衛生法(昭和47年法律第57号)に基づいて、健康診断の結果を踏まえた医師等の意見又は面接指導の結果を踏まえた医師の意見を勘案し、必要があると認めるときは、労働時間の短縮、深夜業の回数の減少その他の労働時間等に係る措置も適切に講じること。また、病気休暇から復帰する労働者については、短時間勤務から始め、徐々に通常の勤務時間に戻すこと等円滑な職場復帰を支援するような労働時間等の設定を行うこと。

そして、労働者の健康を守る予防策として、厚生労働大臣が定めた「労働者の心の健康の保持増進のための指針」を踏まえたメンタルヘルスケアの実施とあわせ、疲労を蓄積させない又は疲労を軽減させるような労働時間等の設定を行うこと。特に、時間外・休日労働の削減に努めること。時間外・休日労働が多い労働者については、代休やまとまった休暇の付与等を行い、疲労の回復を図らせること。恒常的に時間外・休日労働が多い部署については、業務の見直しを行う他、配置転換を行う等により、労働者各人ごとの労働時間の削減を行うこと。

ロ 子の養育又は家族の介護を行う労働者

事業主は、育児休業、介護休業等育児又は家族介護を行う労働者の福祉に関する法律(平成3年法律第76号)等を遵守し、育児休業、介護休業、子の看護休暇、介護休暇、所定外労働の免除、時間外労働の制限、深夜業の制限、所定労働時間の短縮措置等により労働時間等の設定の改善を行うとともに、その内容を労働者に積極的に周知する等制度を利用しやすい環境の整備を図ること。

特に、育児等を行う男性は、増加しているものの依然低水準にとどまり、また、出産後の女性が就業継続を希望しながら離職を余儀なくされる場合が見られる現状を踏まえ、男女が共に職業生活と家庭生活の両立を実現できるよう、一層の配慮をすること。

その際には、行動計画策定指針七の1に掲げられた事項にも留意し、子どもの出生時における父親の休暇制度の整備や男性の育児休業の取得促進等男性が育児等に参加しやすい環境づくり、より利用しやすい育児休業制度の実施(法定の期間、回数等を上回る措置を実施すること、休業期間中の経済的援助を行うこと等)等にも努めること。

さらに、時間単位付与制度の活用も含めた年次有給休暇の取得促進、時間外・休日労働の削減等により、子の養育又は家族の介護に必要な時間の確保を図ること。

これらの子の養育又は家族の介護を行う労働者に配慮した労働時間等の設定の改善に当たっては、各企業において労働者の職業生活と家庭生活との両立が図られるようにするための雇用環境の整備に関する取組の状況や課題を把握し、各企業の実情に応じ、必要な対策を実施していくことが重要であるが、その際、厚生労働省雇用環境・均等局長が定めた「両立指標に関する指針」を活用することも効果的である。

ハ 妊娠中及び出産後の女性労働者

事業主は、労働基準法を遵守し、産前産後の女性労働者に休業を取得させるとともに、妊娠中及び産後1年を経過しない女性が請求した場合においては、時間外労働、休日労働、深夜業等をさせないこと。

また、雇用の分野における男女の均等な機会及び待遇の確保等に関する法律(昭和47年法律第113号)等を遵守し、その雇用する女性労働者が、母子保健法(昭和40年法律第141号)の規定による保健指導又は健康診査を受けるために必要な時間を確保することができるようにするとともに、当該保健指導又は健康診査に基づく指導事項を守ることができるようにするために勤務時間の短縮、休業等の措置を講じること。

ニ 公民権の行使又は公の職務の執行をする労働者

事業主は、労働基準法第7条において、労働者が公民としての権利を行使し、又は公の職務を執行するために必要な時間を請求した場合においては、拒んではならないこととされていることを踏まえ、公民としての権利を行使し、又は公の職務を執行する労働者のための休暇制度等を設けることについて検討すること。

なお、労働者が裁判員の職務を行う場合については、裁判員の参加する刑事裁判に関する法律(平成16年法律第63号)第100条において、労働者が当該職務を行うために休暇を取得したこと等を理由として、解雇その他不利益な取扱いをしてはならないこととされていることに留意すること。

ホ 単身赴任者

単身赴任者については、心身の健康保持、家族の絆の維持、子の健全な育成等のため、休日は家族の元に戻って、共に過ごすことが極めて重要である。このため、事業主は、休日の前日の終業時刻の繰り上げ及び休日の翌日の始業時刻の繰り下げ等を行うこと。また、休日前後の年次有給休暇について、時間単位付与制度の活用や労働者の希望を前提とした半日単位の付与を検討すること。さらに、家族の誕生日、記念日等家族にとって特別な日については、休暇を付与すること。

ヘ 自発的な職業能力開発を図る労働者

企業による労働者の職業能力開発は今後とも重要であるが、サービス経済化、知識社会化が進むとともに、労働者の職業生活が長期化する中で、大学、大学院等への通学等労働者が主体的に行う職業能力開発を支援することの重要性も増してきている。このため、事業主は、有給教育訓練休暇、長期教育訓練休暇その他の特別な休暇の付与、始業・終業時刻の変更、勤務時間の短縮、時間外労働の制限等労働者が自発的な職業能力開発を図ることができるような労働時間等の設定を行うこと。

ト 地域活動等を行う労働者

災害を受けた地域の復興支援等におけるボランティア活動や地域活動等の役割の重要性に鑑み、事業主は、地域活動、ボランティア活動等へ参加する労働者に対して、その参加を可能とするよう、特別な休暇の付与、時間単位付与制度の活用、労働者の希望を前提とした年次有給休暇の半日単位の付与等について検討するとともに、休暇等に係る制度を設けた場合にはその周知を図ること。

チ その他特に配慮を必要とする労働者

事業主は、労働者の意見を聞きつつ、その他特に配慮を必要とする労働者がいる場合、その者に係る労働時間等の設定に配慮すること。

(3) 事業主の団体が行うべき援助

同一業種、同一地域にある企業の間では、労働時間等の設定についてお互いに影響を及ぼし合うものと見込まれる。ついては、事業主による労働時間等の設定の改善を促進するためには、仕事と生活の調和の実現に向けた気運の醸成を図るとともに、業種ごと、地域ごとの取組を進めていくことが効果的である。このような取組を進めるに当たっては、業界及び地域の実情に通じた事業主の団体の関与が欠かせない。このため、事業主の団体は、傘下の事業主に対して、仕事と生活の調和に関する啓発資料の作成・配布等を通じた気運の醸成や普及啓発を図るとともに、労働時間等の設定の改善に関する、専門家による指導・助言、情報の提供その他の援助を行うなど、労働者団体とも連携しつつ、民間主導の取組を積極的に行うこと。

なお、事業主の団体がこのような援助を行うに当たっては、一定の条件を満たす場合、事業主団体に対して国が行う支援制度を利用できるので、積極的に活用すること。

(4) 事業主が他の事業主との取引上配慮すべき事項

個々の事業主が労働時間等の設定の改善に関する措置を講じても、親企業からの発注等取引上の都合により、その措置の円滑な実施が阻害されることとなりかねない。特に中小企業等において時間外・休日労働の削減に取り組むに当たっては、個々の事業主の努力では限界があることから、長時間労働につながる取引慣行の見直しが必要である。このため、事業主は、他の事業主との取引を行うに当たっては、例えば、次のような事項について配慮をすること。

イ 週末発注・週初納入、終業後発注・翌朝納入等の短納期発注を抑制し、納期の適正化を図ること。

ロ 発注内容の頻繁な変更を抑制すること。

ハ 発注の平準化、発注内容の明確化その他の発注方法の改善を図ること。

(平21厚労告313・平22厚労告89・平22厚労告409・平29厚労告247・平29厚労告306・平30厚労告375・一部改正)


休憩時間

(意義)

休憩時間とは単に作業に従事しない手待時間を含まず労働者が権利として労働から離れることを保障されている時間の意であって、その他の拘束時間は労 働時間として取扱うこと

Point

手待時間は、その間も場合によって労務を遂行すべき職務上の義務を負って待機していると考えられます。したが って、労働時間とみなされ、自由利用が保障された休憩時間とはいえません。 

就業規則上で、休憩時間とされても、その間に職務上の義務(例えば来客 に応接するなど)を労働者に課したりすると使用者の休憩時間付与義務に反 することになります。 

Point

所定労働時間が7時間30分の場合は、45分の休憩時間を与えなければなりませんが、1時間延長する場合 は更に15分の休憩時間を労働時間の途中に与えなければなりません。

 

昼夜交替制の休憩

問 昼夜交替制は労働時間の延長でなく2日間の所定労働時間を継続して勤 務する場合であるから法第34条(休憩の規定)の条文の解釈(1日の労働時間 に対する休憩の規定と解する)により1日の所定労働時間に対して1時間以上 の休憩を与えるべきものと解して2時間以上の休憩時間を労働時間の途中に与 えなければならぬとの見解は如何。

答 昼夜交替制においても法律上は、労働時間の途中において法第34条第1 項の休憩を与えればよい。

 

Point

延長によって労働時間が8時間を超える場合に、延長時間が何時間であっても、総計1時間の休憩を与えれば法律 上は適法ということになります。 

例えば、所定労働時間が7時間30分で休憩時間が45分与えられているよう なケースで、延長時間が30分を超える場合は、延長時間が何時間であっても、 労働時間の途中に15分の休憩を追加すれば適法ということになります。

 

 

 

 

 


時間外・休日労働

 

休日の振替と時間外労働

就業規則に定める休日の振替規定により休日を振り替える場合、当該休日は 労働日となるので休日労働とはならないが、振り替えたことにより当該週の労 働時間が1週間の法定労働時間を超えるときは、その超えた時間については時 間外労働となり、時間外労働に関する三六協定及び割増賃金の支払が必要であ ることに注意。 

 

POINT 

日の振替えとは、あらかじめ休日と定められた日を労働日(労働者が労働義務を負う)とし、その代わりに他 の労働日を休日とする措置をいいます。このように事前に振り替えた場合に は当該日の労働は休日労働とはなりません。 

 一方、休日に労働させて、事後に代わりの休日を与えるのは代休であって、 この場合には当該日の労働が休日労働であることに変わりはありません。し たがって、代休の場合には、休日労働に関する三六協定及び休日割増賃金の 支払が必要です。 


弾力的な雇用制度

 

法第32条の2 [1箇月単位の変形労働時間制] 

1 使用者は、当該事業場に、労働者の過半数で組織する労働組合がある場合に おいてはその労働組合、労働者の過半数で組織する労働組合がない場合におい ては労働者の過半数を代表する者との書面による協定により、又は就業規則そ の他これに準ずるものにより、1箇月以内の一定の期間を平均し1週間当たり の労働時間が前条第1項の労働時間を超えない定めをしたときは、同条の規定 にかかわらず、その定めにより、特定された週において同項の労働時間又は特 定された日において同条第2項の労働時間を超えて、労働させることができる。

2 使用者は、厚生労働省令で定めるところにより、前項の協定を行政官庁に届 け出なければならない。

 

フレックスタイム制の導入

 

 フレックスタイム制を採用する場合には、就業規則その他これに準ずるもの により、始業及び終業の時刻を労働者の決定にゆだねる旨を定める必要がある ものであること。その場合、始業及び終業の時刻の両方を労働者の決定にゆだ ねる必要があり、始業時刻又は終業時刻の一方についてのみ労働者の決定にゆ だねるのでは足りないものであること。 

なお、法第89条第1項は、就業規則で始業及び終業の時刻を定めることと規 定しているが、フレックスタイム制を採用する場合には、就業規則において、 始業及び終業の時刻を労働者の決定にゆだねる旨の定めをすれば同条の要件を 満たすものであること。その場合、コアタイム(労働者が労働しなければなら ない時間帯)、フレキシブルタイム(労働者がその選択により労働することがで きる時間帯)も始業及び終業の時刻に関する事項であるので、それらを設ける 場合には、就業規則においても規定すべきものであること。 

なお、このことに関して、フレキシブルタイムが極端に短い場合、コアタイ : ムの開始から終了までの時間と標準となる1日の労働時間がほぼ一致している 場合等については、基本的には始業及び終業の時刻を労働者の決定にゆだねた こととはならず、フレックスタイム制の趣旨に合致しないものであること。 

POINT 

 始終業時刻を○時○分と具体的に定めるのではなく、始終業時刻の両方を労働者の決定に委ねる旨を規定すること になります。 

ただし、コアタイム、フレキシブルタイムを設定した場合は、各々の時間 帯の開始と終了の時刻を定める必要があります。 

このほか、フレックスタイム制を適用する期間の起算日を定める必要があ ります(則12条の2)。 

 

法第32条の3〔フレックスタイム制〕 

使用者は、就業規則その他これに準ずるものにより、その労働者に係る始業 及び終業の時刻をその労働者の決定に委ねることとした労働者については、当 該事業場の労働者の過半数で組織する労働組合がある場合においてはその労働 組合、労働者の過半数で組織する労働組合がない場合においては労働者の過半 「数を代表する者との書面による協定により、次に掲げる事項を定めたときは、 その協定で第2号の清算期間として定められた期間を平均し1週間当たりの労 働時間が第32条第1項の労働時間を超えない範囲内において、同条の規定にか かわらず、1週間において同項の労働時間又は1日において同条第2項の労働 時間を超えて、労働させることができる。 

一 この項の規定による労働時間により労働させることができることとされる 

労働者の範囲

二 清算期間(その期間を平均し1週間当たりの労働時間が第32条第1項の労 働時間を超えない範囲内において労働させる期間をいい、3箇月以内の期間 に限るものとする。以下この条及び次条において同じ。)

三 清算期間における総労働時間

四 その他厚生労働省令で定める事項

 

2  清算期間が1箇月を超えるものである場合における前項の規定の適用につい ては、同項各号列記以外の部分中「労働時間を超えない」とあるのは「労働時 間を超えず、かつ、当該清算期間をその開始の日以後1箇月ごとに区分した各 期間(最後に1箇月未満の期間を生じたときは、当該期間。以下この項におい て同じ。)ごとに当該各期間を平均し1週間当たりの労働時間が50時間を超え ない」と、「同項」とあるのは「同条第1項」とする。

3. 1週間の所定労働日数が5日の労働者について第1項の規定により労働させ る場合における同項の規定の適用については、同項各号列記以外の部分(前項 の規定により読み替えて適用する場合を含む。)中「第32条第1項の労働時間」 とあるのは「第32条第1項の労働時間(当該事業場の労働者の過半数で組織す る労働組合がある場合においてはその労働組合、労働者の過半数で組織する労 働組合がない場合においては労働者の過半数を代表する者との書面による協定 により、労働時間の限度について、当該清算期間における所定労働日数を同条 第2項の労働時間に乗じて得た時間とする旨を定めたときは、当該清算期間に おける日数を7で除して得た数をもつてその時間を除して得た時間)」と、「同 項」とあるのは「同条第1項」とする。

4  前条第2項の規定は、第1項各号に掲げる事項を定めた協定について準用す る。ただし、清算期間が1箇月以内のものであるときは、この限りでない。 

(昭62法:99・追加、平11法160・平30法71・・・部改正) 

 

法第32条の3の2 

使用者が、清算期間が1箇月を超えるものであるときの当該清算期間中の前 条第1項の規定により労働させた期間が当該清算期間より短い労働者につい て、当該労働させた期間を平均し1週間当たり40時間を超えて労働させた場合 においては、その超えた時間(第33条又は第36条第1項の規定により延長し、 又は休日に労働させた時間を除く。)の労働については、第37条の規定の例によ り割増賃金を支払わなければならない。 

 

(平30法71・追加) 

 

  則第12条の3【フレックスタイム制の労使協定で定める事項] 

法第32条の3第1項(同条第2項及び第3項の規定により読み替えて適用す る場合を含む。以下この条において同じ。)第4号の厚生労働省令で定める事 項は、次に掲げるものとする。 

標準となる1日の労働時間 二 労働者が労働しなければならない時間帯を定める場合には、その時間帯の 開始及び終了の時刻 2 労働者がその選択により労働することができる時間帯に制限を設ける場合 には、その時間帯の開始及び終了の時刻 四 法第32条の3第1項第2号の清算期間が1箇月を超えるものである場合に あつて、同項の協定(労働協約による場合を除き、労使委員会の決議及び 労働時間等設定改善委員会の決議を含む。)の有効期間の定め (2) 法第32条の3第4項において準用する法第32条の2第2項の規定による届出 は、様式第3号の3により、所轄労働基準監督署長にしなければならない。 (昭62号令31・追加、平12労令41.平30厚労令112・一部改正) 

 


年次有給休暇

次の要件を満たす正社員には、10日間の年次有給休暇を与えなければなりません。(労基39)

雇入れ日から起算して6か月継続勤務していること

全労働日の8割以上出勤していること 

 

POINT 

391項は雇い入れから6か月間の継続勤務を年次有給休暇の発生要件の1っとしていますが、労働基準法が定める労働条件の基準は最低基準ですので(12)、継続6か月間の期間満了前に年次有給休暇を与えるなど要件を緩和して労働者の有利に取り扱うことは可能です。

 

① 継続勤務の意義

継続勤務とは、労働契約の存続期間、すなわち在籍期間をいう。

継続勤務か否かについては、勤務の実態に即し実質的に判断すべきものであり、次に掲げるような場合を含むこと。この場合、実質的に労働関係が継続している限り勤務年数を通算する。

イ 定年退職による退職者を引き続き嘱託等として再採用している場合(退職手当規程に基づき、所定の退職手当を支給した場合を含む。)。ただし、退職と再採用との間に相当期間が存し、客観的に労働関係が断続していると認められる場合はこの限りでない

 

ロ 法第21条各号に該当する者でも、その実態より見て引き続き使用されていると認められる場合

臨時工が一定月ごとに雇用契約を更新され、6箇月以上に及んでいる場合であって、その実態より見て引き続き使用されていると認められる場合在籍型の出向をした場合

ホ 休職とされていた者が復職した場合

へ 臨時工、等を正規職員に切替えた場合 

ト 会社が解散し、従業員の待遇等を含め権利義務関係が新会社に包括承継された場合

チ 全員を解雇し、所定の退職金を支給し、その後改めて一部を再採用したが、事業の実体は人員を縮小しただけで、従前とほとんど変わらず事業を継続している場合  (昭63・3・14基発15の

 

   年次有給休暇の発生要件の継続勤務とは、労働契約の存在

POINT 

・一続期間、すなわち原則として同一の使用者のもとで労働者が在籍している期間を意味し、継続勤務にあたるか否かは勤務の実態に即して実質的に判断されます。したがって、療養等で休職している期間や在籍出向中の期間なども在籍している期間ですので継続勤務期間となりますし、日雇や短期雇用者が更新などにより実態として引き続き使用されていると認められる場合や、契約の変更でパ トから正社員、逆に、正社員からパー身分の切替えがあっても継続勤務とされます。また、会社の合併などで従業員との契約関係が新会社に包括承継された場合や、定年退職者を引き続き嘱託として再雇用するなど、退職・解雇等で労働契約が外形上いったん終了したようにみえても同一の労使間で再び労働契約を締結して実質的に労働関係が継続しているとみられる場合は継続雇用にあたるとされます。 

 

法第39条(年有給休暇)付与日数

使用者は1年6箇月以上継続勤務した労働者に対しては雇い入れの日から起算して6月を超えて継続する日(以下「六ヶ月経過日]という。)から起算した継続勤務年数1年ごとに10日に次の表の情欄に掲げる6箇月経過日から起算した継続勤務日数の区分に応じ下表の欄に掲げる労働日を加算した有給休暇を与えなければならない。ただし継続勤務した期間を6月経過日から1か月ごとに区分した各期間(最後に1年未満の期間を生じたときは当該期間)の初日の前日の属する期間において出勤した日数が全労働日の8割未満である者に対しては当該初日後の一年間においては有給休暇を与えることを要しない。

6箇月経過日から起算した継続勤務労働日 労働日
 1年  1労働日
2年 2労働日
3年 4労働日
4年 6労働日
5年 8労働日
6年以上   10労働日